朽方 勇祐3年 朽方 勇祐

『夢』だからこそ― そこへ向かう過程は、現実的じゃないといけないんだよ。 (足軽。ガガガ文庫『弱キャラ友崎くんLV.8』より)

今までで一番うれしかった瞬間。それは自動車免許を取 得したときでもなく、ライブのチケットが当たったときで もなく、土地家屋調査士試験(以下調査士試験)の筆記試験 に合格したときです。そう断言できるほどこの試験には想 いを懸けて挑みました。

土地家屋調査士(以下調査士)という名前すら聞いたことない人が多いと思います。 よって、まずは軽く調査士について説明しようと思います。調査士の業務は主に表示に 関する登記の代理申請です。例えば、宅地造成、土地の分割、建物の新築、増築などの 工事をしたとします。これらを円滑に取引するために現況を正しく公示する必要があ ります。この公示をするのが不動産登記の中の表題部です。調査士は表題部を作成す るため、測量や調査、図面作成をすることが業務の内容となっています。

グラフ

図1 調査士試験の受験者数と合格率の推移(日本土地家屋調査士連合会より引用)

私が調査士を目指したのは、大学1年生の秋ごろ、宅地建物取引士(以下宅建士)の 試験が終わったころです。宅建士に合格した私は自信に満ち溢れていました。大学生活は残り3年もあるし、もっとレベルの高い資格に挑戦してみたいと思ったのです。 その旨を明海大学の先生方に相談したところ、調査士を勧められました。この時初めて 調査士を知りました。調査士の業務を調べると、先に述べたような業務内容が見つかり ました。この時「面白そう」「自分に向いていそう」と感じ、この資格に挑戦しようと決 めました。

試験の概要を調べて、まず驚愕したのは合格率の低さです。図1をご覧ください。

調査士試験は毎年約4500人が受験し、そのうち約400人が合格する。合格率8~9% の難関試験だったのです。独学で合格するのは難しいと感じ、お金を貯めて予備校に通 うことにしました。

しかし、いきなり予備校に通ったわけではありません。ここで調査士の試験の概要 について説明したいと思います。調査士の試験は例年10月の第三日曜日に筆記試験が 実施され、筆記試験の合格者は1月中旬にある口述試験を受け受けることになります。 これに合格すると晴れて調査士の資格を有することになります。また筆記試験は午前 と午後の2部構成となっています。このうち午前の部に関しては、測量士、測量士補、 一級・二級建築士いずれかの資格を有していれば免除になります。合格者のほとんど は午前の部を免除して午後の部で勝負しています。だから私はまず、測量士補の資格勉 強からはじめました。

測量士補の試験は例年5月中旬に実施されます。合格率は約35%で比較的易しい試 験だと思います。大学が春休みになった3月くらいから勉強を始めて、大学2年生に なった5月に合格することができました。そして、大学2年生の7月から調査士の予 備校である「東京法経学院」に入り勉強を始めました。

スケジュールフロー

図2 スケジュールフロー

調査士の勉強は本当に難しかったです。宅建士の時に比べると体感で3 倍くらいの 難易度だったと思います。調査士試験午後の部は択一20 問、書式2 問を2 時間30 分 で実施します。書式2 問では製図の作成も含まれます。とにかく早く解けるようにな らないと全問終わりません。また年度によって異なりますが、合格点は7.5 割から8 割 とかなり高くなっています。つまり速さと正確さ両方を兼ねていないといくら勉強をやっても合格することはできない試験です。

ですからこの1 年3 か月はかなり過酷でした。計算や製図のスピードを上げるため に毎日練習し、法律を正確に理解するために重い六法を毎日持ち歩いていました。黒イ ンクのボールペン3 つ使い切るほど記述問題を解きました。予備校には同じ年代の人 がほとんどいなく、勉強のつらさを共感する話し相手の人を作ることもできませんで した。大学でも設計の課題やゼミの課題をこなしていかなくてはならず、ストレスで家 にあるぬいぐるみを殴ることもありました。このように何度も壁にぶつかり挫折しそ うになった日々の中でも、勉強を続けられたのは、ひとえに夢があったからです。それは「調査士になって独立して自分の事務所を持つこと」です。実は1 年生の春休み中に 調査士の事務所にインターンシップとして1 週間体験をしていました。そのとき1 ミ リ単位で測量をするプロ意識の高さや自分のことではなく社員やお客様のことを考え る経営者の在り方を目の当たりにし、「自分もこういうふうになりたい」と憧れをもつ ようになりました。この夢があったからこそ、成績が伸びず苦しい思いをしたときで も、勉強をあきらめることだけは絶対にしなかったのです。

いよいよ試験当日になった日、かつてないほど緊張したのをはっきり覚えています。 心臓の鼓動が自分にも聞こえるくらい、ドクンドクンドクンと大きく速く鳴り、唇がわ なわな震えていました。しかし、震えながらペンを握って問題をみると、なんと自分が 興味本位で調べた事柄が試験にでたのです。そういった幸運がいくつも重なり、今年の 1 月に、1 年3 か月の勉強期間で筆記試験に合格することができました。

筆記試験を終えた私は、進路のことを含め実務のお話を調査士の先生方から聞いて います。そうして感じたことは、調査士になるためにはまだまだ勉強が必要で、合格は あくまでスタートラインだということです。私は調査士としても社会人としてもまだ まだ未熟です。慢心せずにまた新たな一歩を踏みだしていこうと思います。